雪ふる静かな世界

 先日、関東地方一帯に雪が降りました。五センチほど積もりましたが、一日足らずでほとんど消えてなくなってしまいました。

 雪が降る様子を説明する言葉に「しんしんと」というものがあります。よく「雪がしんしんと降る」と言ったりしますね。漢字にすると「深深と」という書き方になりますが、この言葉は別に雪がめちゃくちゃに降り積もってうもれてしまうほど積もる、という意味ではありません。そうではなく「しんしんと」は、音もなく雪が降っている様子を示しています。よく教室が静かになることを「教室がしんとした」といった表現をしますが、その「しん」と同じですね。

 日本では昔から、雪は風流なものとして扱われてきました。中学二年生の国語で勉強する、平安時代に清少納言が書いた「枕草子」にも、そのことについての記述があります。

 現代の文学の雪の描写として、次のようなものがあります。

 雪が降るのではない。雪片(せっぺん)に満たされた宇宙を、ぼくを乗せたこの世界の方が上へ上へと昇っているのだ。静かに、(なめ)らかに、着実に、世界は上昇を続けていた。

 これは池澤夏樹という作家が書いた「スティル・ライフ」という作品の引用です。このスティルは英語の「still」ですが、意味は「まだ、なお」ではなく、ここではどちらかといえば「静かな」という意味。

 引用したのは、主人公が降りそそぐ雪をじっと見ている場面です。(かろ)やかに舞い散る雪の不思議な浮遊(ふゆう)感がきれいにあらわされています。雪が上から下に落ちているのではなく、いま、自分が立っている世界が静かに上昇しているのだという見方は、わたしたちがふだん(つか)かっているものの見方を変えてくれます。

 この作品は芥川(あくたがわ)賞という権威(けんい)のある賞を受賞しました。芥川賞に選ばれる作品は、比較的みじかいものが多いです。「スティル・ライフ」もあまり長くなくて、それでいて繊細(せんさい)な文章が編み物のようにつむがれています。ぜひ、お手に取ってみてはいかがでしょうか。(大崎)

TOP