先日行われた埼玉県公立高校入試。
私も一通り解いてみました。
「難しかった」「簡単だった」いろいろ感じることはありますが、それを書くことによって結果を待つ受験生たちの気持ちが動いてしまうのも申し訳ない気がしています。
(たしか昨年は書いてしまいましたが…。書いた挙句、予想もだいぶ違っていたので申し訳なかったです。。)
今回は入試の全体的な総評ではなく、「気になる問題」をいくつかピックアップしてみたいと思います。
小学生、中1生、中2生、保護者様も「へぇ~、こういう問題が出るのか」と参考にしていただければ幸いです。
※なお、国語に関しては著作権の問題がありますので除きます。
数学
まずはこの問題
この問題は学力検査、学校選択ともに出題されました。
一見すると数学の問題に見えません。
計算力や思考力が問われる問題というよりも、「全数調査」や「標本調査」という言葉の意味を知っているかどうか、が問われていると思います。
近年の公立高校入試では全国的に「資料の調査」という分野からの出題がかなり増えている印象があります。
平均値、中央値、最頻値、相対度数、箱ひげ図、などなど。
それぞれの言葉の意味を知っていないと正しい解答を作れない問題が増えています。
次の問題もそうです。
これも学力検査、学校選択ともに出題がありました。(出題の形は違いましたが。)
この問題に出てくる「第1四分位数」という言葉の意味が分からなければ、この問題の正しい解答は書けないでしょう。
解答には「第3四分位数」という言葉を使わなければいけません。当然、意味を知っていないと使うことはできません。
「資料の問題は来年以降も出される可能性が高い」と思って準備をしなければいけないでしょう。
作図の問題も少し面白い形で出されました。
理科の天体の内容と絡めての出題でした。
ただ、問題文中に「1時間15度で反時計回りに回転する」とありますので理科の知識は必要ありません。
「1時間15度で回転するということは4時間で60度だ。60度ということは正三角形の作図か。」と気づけば解ける問題です。
しかし、入試本番でこのように冷静に考えて、正しい解法に気づくことができるのかどうか。
もしかしたら、「え?理科の問題?自分は理科は苦手だから分からないよ…」と不要に難しく考えてしまった受験生もいるかもしれません。
理科の内容を絡めたり、「60度」と言わずに「1時間15度で4時間分」と表現を変えることによって、受験生たちにとっては厄介な問題となることもあるでしょう。
普段から問題文をしっかり読んで、「その問題が何を聞いているのか」を正しくとらえる訓練が必要な気がします。
また、このような教科を横断するような問題も全国的に増えています。
特定の教科に特化するのではなく、全体的な知識を身につけることを求められているのかもしれません。
学力検査と学校選択の違いは?
埼玉県の公立高校入試では、数学と英語のみ2つのテストに分かれています。
1つが「学力検査」、もう1つが「学校選択」です。
簡単に言うと「学力検査」が普通のテスト。「学校選択」が難しいテストです。
「学校選択」を採用する学校は中堅上位校となっています。
ちなみに川越周辺で言うと(いわゆる西部地区)、「学校選択」の採用校は川越南、川越、川越女子、所沢、所沢北、和光国際という学校が並びます。
どの学校も人気校で、毎年競争率も高くなります。
「学力検査」と「学校選択」でどのくらいの問題難易度の差があるのか、少しだけ見てみましょう。
まずは「学力検査」問題です。
いかがでしょうか。
最初の(1)~(4)までだったら、中1生でも解くことができますよね。(むしろ、解くことができないと困っちゃうのですが…)
もちろん、この後の問題はそれなりに考える問題も出題されていきますが、「基本的な数学の力がきっちり付いていればある程度の点数は取れる」問題になっています。
一方、「学校選択」はどうか。
最初の3問を見ただけで、レベルが違うのがお分かりだと思います。
「学校選択」問題の場合は基本的な数学の力がないと、冗談ではなく1桁の点数になってしまいます。
この後に続く問題も「学力検査」とはレベルがだいぶ変わります。
この近辺の高校でいうと、「市立川越高校は学力検査」の学校です。
「川越南高校は学校選抜」の学校です。
どちらも人気校で、中1生、中2生に志望校を聞くと「市立か川南くらいに行きたい。」と言う生徒さんが多いです。
しかし、試験の中身をみると「どっちかに行きたい」とは軽々しく言えない内容になっていたりするのです。
「学校選抜」採用校である川越南受験になるのであれば、それなりに早い時期から対策していかないといけない、ということだけは頭に入れておいて欲しいと思います。
英語
学力検査では、大問2の問題構成の変化が少し受験生を驚かせたかもしれません。
昨年までの大問2は非常にシンプルな英単語を答えるような問題でした。
令和3年と令和4年の英語の大問2の解答がこちら☟
令和4年
令和4年では多少の記述は求められていましたが(Dの問)、令和5年の今年の入試ではさらに記述が求められる問題になりました☟
この辺りは「どうせ大問2は英単語問題だろうから楽勝だぜ!」と思っていた受験生はびっくりしたかもしれません。(入試本番でそのような余裕を持っている受験生はなかなかいないと思いますが。。)
何にしても、「入試ではこれが出る」とか、「入試の問題構成はこうだ」とか、決めつけるのは良くないことだと改めて思いました。
近年の埼玉県公立入試は今までの出題形式が通用しないことが多いですので、「どんな問題が出題されても」という意識で臨まないといけません。
その他、学力検査、学校選択ともに大きな変更はなかったように思いますが、「学校選択」の方で気になる部分が2つあります。
1点目は、新出の英文法の出題が非常に少なかったこと。
昨年は仮定法過去、原形不定詞、現在完了進行形など、教科書改訂以降の新出文法が続々と出題されました。
しかし、今年はすっかり影を潜めていた印象です。
問題文中には出ていましたが、新出内容をガッツリ問う問題は非常に少なかった気がします。
もう1点は、英作文のテーマが簡単になったこと。
今年のテーマは「海と山、どちらの近くに住みたいですか?」という内容。
おそらくこの英作文のテーマを見た多くの塾の先生方は拍子抜けしてしまったと思います。
ちなみに令和4年の英作文のテーマは、「スピーチやプレゼンテーションの準備の調査のために、図書館やコンピューターをどのように使いますか。」でした。
令和3年の英作文のテーマは、「小学生はもっと自然の中で時間を過ごすべきだという意見がありますが、あなたはどう思いますか。」でした。
今年のテーマと比べると全く難易度が違います。
「今年の学校選択の英作文は、SDGsについてだろうか…。いや、少子高齢化の話だろうが…。いや、平和を実現するためにだろうか…。性差別撤廃の話だろうか…。」などなど。多くの塾の先生方が日本語の作文でもちょっと難しいテーマが来るのではないか、と身構えていたと思います。(私もその一人でした。)
しかし、結果は「海と山、どちらの近くに住みたいですか?」というとんでもなく簡単なテーマでした。
これは原点回帰の流れと行っていいのかどうか…
埼玉県の入試が学力検査と学校選抜に分かれる前は、英作文のテーマは簡単なものばかりでした。
ある程度、英作文の型を身につけてしまえばササっと書けるようなテーマがだいたい毎年出題されていました。
もしかしたら、その時代の英作文に戻る…という流れなのでしょうか。
まだ今年だけの話ですので、これを持って「来年以降も英作文は簡単になる!」なんて乱暴なことは言えません。
しかし、今年の英作文のテーマがかなり簡単になったことについては間違いありません。
社会
われわれ塾講師たちをもっとも驚かせたのは、地形図の問題でしょう。
なんと、恒例の地形図の正誤問題が出題されませんでした。
昨年までは毎年このような問題が出題されていました☟
引っ掛けのような表現もありますし、また、「全て選べ」という問題形式のためミスしてしまう生徒さんもそれなりに出るのですが、今年は出題されませんでした。
今年の社会で他に気になったのは以下の2問。
まずはこの問題☟
Pの中に入る文章を答える問題です。
この問題の模範解答は、「自動車組み立て工場の近くに自動車部品工場がある」です。
地図を見れば当たり前の解答なんですね。
知識は全く必要ありません。
逆に知識に頼りすぎてしまうと、「え~と…、高速道路沿いってことかな。。でも、そうすると、次のQの答えと被ってしまうし…。どうしよう、自動車工場の分布なんて覚えてないよ!!」と、手が止まってしまう問題かもしれません。
上の画がヒントになっているのです。
「それぞれの部品工場から、部品が組み立て工場に届いて自動車が作られているんだな。」
⇒「それぞれの工場が近い方が有利なんだな。」
そこに考えが及べば、地図を見た瞬間に答えを導き出すことは容易だったと思います。
「考えさせる問題」、いわゆる「思考力を問う問題」が徐々に高校入試でも増えていますが、まさにその表れみたいな問題だったと思います。
最後の問題もまさに「考えさせる問題」でした。
昨年も熊本市の水使用についての資料問題が出されましたが、今年も同じ形式の問題が出ました。
問題文や資料をしっかり読んで、どのようなことを言いたいレポートなのかを判断していくことが必要です。
決して難しい問題ではありませんが、丸暗記の知識では通用しない問題です。
常日頃から「考える」という訓練を積んでいない受験生には全く手が出なかった問題かもしれません。
また最終問題になるため、余裕を持ってこの問題にたどり着いていないと時間オーバーになる可能性もありそうです。
理科
理科でも資料を見て考えて答える問題が出されました☟
偏西風が「西から東に吹く風」と言うのが分かっていれば、あとは理科の知識は必要のない問題です。
問題文と表2、表3の資料を問題文と照らし合わせながら考えればそれほど難しくはないでしょう。
ただ、緯度や経度といった言葉が何を意味しているのか、と言う部分は知識として必要になります。
緯度・経度は理科ではなく、どちらかと言うと社会(地理)の知識になるため、数学同様に教科を横断する思考が必要になって来ます。(この問題はどちらかと言うと地理の問題である気がします。)
次の問題も知識というよりも、入試本番のその場で考える問題です。
めずらしい問題だな、と思いましたが、文章や絵をみるとほとんど答えが書いてあります。
「エンドウについて、図1は開花後の花のようす、図2は開花後の花の縦断面・・・」と、問題文にあり、その図が下にあります。
開花後のおしべ、めしべが花弁に包まれていることが一目瞭然で分かりますね。
模範解答は、「エンドウや開花後も、おしべとめしべが一緒に花弁に包まれているから」です。
そのままと言えばそのままです(笑)。
最終問題のフレネルレンズの問題はなかなか難しい問題でしたが、あれも光の屈折の原理を丁寧に考えていけば分かった問題かもしれません。(ただ最終問題でそこまで考える時間があれば…の話ですが。)
まとめ
近年の埼玉県公立入試は年ごとに問題傾向や形式がちょこちょこ変わっているように思います。
今年もそのような変化がポツポツ見られました。
やはり数年前まで通用していた「入試ではこれが出る!」「入試ではこの問題から先にやれ!」のようなパターン演習や型にはめた学習法は通用しないな、と思いました。
当たり前の表現になってしまいますが、幅広い確かな知識が必要になっているな、と。
表面上の一問一答的な知識の暗記は入試ではなかなか通用しません。
一つ一つの用語の意味、知識の流れなど、深い理解を求められています。
常日頃から「この用語の意味は何だろう?」「なんでこういう答えになるんだろう?」そういう意識で学習を進めて欲しいと思います。