「And Then There Were None」

 突然ですが皆さん、タイトルの英文の意味が分かりますでしょうか。英文を読むのに欠かせない「There are~」という連語が使われていますね。

 特に引っ張る必要もないので早々に書いておきますが、上の英文は『そして誰もいなくなった』と訳されます。20世紀イギリスの作家、アガサ・クリスティが書いた長編サスペンスの原題です。「名探偵コナン」にも()(がさ)博士という人物が登場しますが、それはこのアガサ・クリスティからもじったものなのでしょう。

 さて、『そして誰もいなくなった』はサスペンスの古典として知られています。孤島に十人の男女が集められて、童謡の歌詞に沿って一人ずつ殺されていき……といった内容になっております。最後はどうなるのでしょうか。タイトル通り「そして誰もいなくなっ」てしまうのであれば、犯人自身もいなくなってしまうことになります。それとも犯人は外部からやってきた十一人目の人物なのか。そういった謎が、簡潔でインパクトのあるタイトルからすでに提示されています。

 この作品が後世に与えた影響は莫大(ばくだい)なものでした。孤島や嵐の山荘(さんそう)など、少数の人間が外部と行き来できない状況下におちいって事件が発生するという場面設定を「クローズド・サークル」といって、『そして誰もいなくなった』はその代表的な作品と言えるでしょう。現代日本でもクローズド・サークルを扱った小説作品や漫画、映画はたくさん作られているので、見たことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 私がこの作品を初めて読んだのは高校一年生の頃だったかと思います。流れるように進んでいく物語に頭を強く殴られたような衝撃を受けたのを今でも記憶しています。人が次々と消されていく話なのに、陰惨(いんさん)さがあまり感じられないのもこの物語の凄いところです。物語の進んでいく過程はむしろ芸術的だといっても良いくらいで、この作品が何十年にもわたって評価されているのにも頷けます。まるで計算され尽くされた精密機械のように精密で美しい作品です。ぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか。(大崎)

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