木下龍也『オールアラウンドユー』

 詩はすべて「さみしい」という4文字のバリエーションに過ぎない、けれど

 突然ですが、この言葉をどう思いますか?人によっては、詩に対するあきらめの言葉に見えるかもしれませんし、あるいは、肯定的なニュアンスを感じさせる言葉に映るかもしれません。

 この言葉は、実は短歌になっていて、5・7・5・7・7のリズムでテンポよく読むことができます。

 詩はすべて  「さみしい」という  4文字の  バリエーションに  過ぎない、けれど

 そうすると、なんとなく最後の「けれど」が強調されて、希望をほのかに漂わせる余韻が生まれているように感じられます。この「けれど」の後の言葉を直接表現することは字数の関係できませんが、しかしあえて制限された時数の中で「それでも」と思わせてくれる、素敵な短歌です。

 この短歌は木下龍也という歌人の作品です。今も活躍されている方で、川越駅の本屋でも、この短歌が収録された歌集を手に取ることができます。

 短歌と聞くと国語の授業で読まされるような固いものを想像されるかもしれませんが、木下龍也さんが読む短歌は自由で、それでいて31文字の短さの中で素晴らしい表現を残しています。

 人間へ まだ1割の力しか出してないけど? 消費税より

 短歌というのは定められたリズムを意識して読むこともできれば、そういった音律を忘れて読むこともできます。冒頭で引用した短歌についても、短歌と意識せずにそのまま読んだ方がいたと思います。それでも、短い言葉の持つ切れ味は失われません。

いま引用した消費税からの言葉も、リズムを伴って読めば、どこか楽しそうなユーモアの含まれる31文字として読むことができて、「まだ1割の力しか出してないけど?」の部分を一気に読めば、逆に攻撃的な雰囲気を感じられます。ちょっと前までは5パーセントの力しか出していなかったはずなのですが、いつの間にか消費税は力を増していき、わたしたちの買い物に重たくのしかかっています。このまま、1割の力で抑えてもらえたらうれしいのですが。

 波ひとつひとつがぼくのつま先ではるかな旅を終えて崩れる

 この短歌の中では「ひとつひとつ」という言葉が、リズムの切れ目に並べられて「ひとつ/ひとつ」といったように分断されています。この分断が、押し寄せる波の間隔(かんかく)を表しているようで、言葉の切れ方でリズムが感じられます。「終えて崩れる」という悲しさの残る言葉で終えられているのも、綺麗にまとまっていて素敵ですね。

 紹介した短歌は、木下龍也 著『オールアラウンドユー』という歌集にすべて収録されています。この本には、一つのページに一つずつ、短歌が記されています。31文字の言葉の勢いを感じてみたい方、ぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか。

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