魚豊「チ。-地球の運動について-」

突然ですがみなさん、世界を動かしたくないですか?

わたしは権力を手に入れて世界を動かしたいという野望を持っています。

具体的には、火曜日と木曜日を休みにしたいという壮大な計画を企てています。

ですが、休みを増やすことをはじめ、世界を動かすのはそう簡単なことではありません。

中学校の生徒会選挙で、「みなさん、右を向いてみてください」と言って生徒の首を動かしてから「このように、私には人々を動かす力があります」と言った生徒会役員候補がいましたが、個々人にできるのはせいぜいその程度で、今や70億人以上もいる人類を動かすのは、ほぼほぼ不可能に近いでしょう。


しかし、人類の歴史において、止まっていた地球が動き出した瞬間があります。

それは「地動説」が説かれ始めたときです。

昔の人は地球が全宇宙の中心で、太陽や火星などの星はすべて、地球を中心にして回転していると考えていました。

つまり自分たちの立っている地球が不動であり、宇宙の基準であると信じていたのです。

ふだん、普通に生きていて地球が動いていることなど意識しませんから、それも無理のないことかもしれません。

地球は動かないで空が回転しているという考えを「天動説」と言います。


しかしこの天動説には、惑星の軌道が複雑すぎるという問題がありました。

地球を中心に星の軌道を計算すると、星が逆の向きに進んでしまい、どうしてもおかしな動きになってしまうのです。

それが原因で、火星などの星は「(まど)(まど)う星」、すなわち「惑星」と呼ばれるようになりました。


一方あるとき「神さまの創り出した宇宙が、こんなに複雑なはずがない!」と考える人が出てくるようになりました。

欠点などない完璧な神様が作り出した世界である以上、星が変な軌道を描くのはおかしい、という考えです。

彼らは宇宙の中心を地球から太陽へ移し、空の動きを説明しようとしました。

そうすると、天動説では複雑きわまりなかった星の動きが、簡単に説明できるようになりました。

そうしてできあがったのが「地動説」です。

当然、人間がいくら論じても空の動きは変わりません。動いているものは動いているし、止まっているものは止まっています。

しかし天文学者の計算と研究によって、人間の頭の中の世界が少しずつ動き始めていったのは間違いありません。


魚豊(うおと) 著「チ。-地球の運動について-」は天動説に命をささげる人たちを描いた漫画作品です。

主人公をはじめとする人間がひどい目にあったりするので、グロテスクなものが苦手な方にはおすすめしかねますが、真理に向かって命を燃やし、知性を働かせる人々の姿は、感動的なものがあります。

キャッチコピーは 「命を捨てても曲げられない信念があるか? 世界を敵に回しても貫きたい美学はあるか?」です。めちゃくちゃかっこいいですね。皆さんには、命を捨てても曲げられない信念はありますか? 残念ながらわたしにはありません。だからこそ、彼らの生き方に感動を覚えるのかもしれません。

巻数も多くなく、読みやすくまとまった作品に仕上がっているので、科学に興味がある方、または今現在、理科の天体の単元に苦戦している方は読んでみてはいかがでしょうか。

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