突然ですが皆さん、人生ってヤバいですよね。
私の話ですが、この世に生を受け、よく分からないままに勉強し、流されるままに生きてきて気が付いたら二十歳。ネットを開けば暗いニュースばっかりで、就職難だの不景気だの、そんな言葉が回転寿司のように次から次へと流れていきます。
「あ~~~、何もかも投げ出した~い!全部放り出して海とか行きた~い!それでウニとかカニを山ほど食べた~い!」
とか思いながら仕事や勉強をしている方も多いのではないでしょうか。私もそんなことを思いながら日々を送っている一人ですが、悲しいかな、人間は社会的な動物、いきなり全部投げ出してどこかへ行ってカニをたらふく食べるなんて、そうそうできることじゃありません。残酷ですね、人生って。
そんな悩みを抱えるのは全部、人間に生まれてきたせいではないでしょうか?人間に生まれて来なければ、人間関係や将来のことで悩み苦しむこともなかったのではないのでしょうか?
ということで今回取り上げる本はトーマス・トウェイツ著 村井理子訳『人間をお休みしてヤギになってみた結果』という本です。どのような内容なのか、タイトルがすべてを物語っていますね。
この本は、著者のトーマス氏が人間の悩みにうんざりし、他の動物になりたいと決心するところから始まります。最初はゾウになろうと思っていたのですが、ゾウは人間と同じように悩んだりするのでやめになり、結局ヤギになりました。
当然のことながら、二足歩行のヒトと四足歩行の動物は骨格からして違います。またヤギのような草食動物と我々のような雑食の動物は消化器官も大きく異なっています。トーマス氏の目標はヤギになってアルプスを越えること。骨格や内臓の違いを科学技術でクリアして、彼はヤギになることを目指します。
ところで、ヤギとヒトを明確に分け隔てるものは何でしょうか。先ほど挙げたように、骨格や内臓といった器官は二つの動物で大きく違っていますが、哺乳類という観点から見ればヤギもヒトも一緒です。
この本で紹介されている研究によると、ヤギは将来や過去についてあまり深く考えられないそうです。だからヤギはその瞬間、その瞬間に物事を判断して生きています。一方でヒトは未来のことや過去のことをあれこれ考えて、「あの時こうしていれば」とか「あれをするために、今これをしよう」とか悩みます。この思考能力の有無こそが、人間とヤギを大きく分ける特徴ではないでしょうか。
人間がヤギになるというこの実験は、2016年にイグノーベル賞を受賞しました。イグノーベル賞はユーモアがあって考えさせる業績に対して贈られる賞です。過去には「たまごっち」の開発や「カラオケ」の開発などに対して贈られたこともあります。トーマス・トウェイツ著 村井理子訳『人間をお休みしてヤギになってみた結果』も、一件ばかばかしく見えながらも、人間と他の動物の違いを考えさせてくれる作品です。科学に興味がある方、人間をやめたい方、ヤギになって草を食べたい方などがいましたら、お手に取ってみてはいかがでしょうか。もちろんそれ以外の方でも、ものすごく楽しめる内容だと思います。(大崎)