ハン・ガン『別れを告げない』

最近、東京都にある神保町(じんぼうちょう)に行きました。

神保町は本の町として有名で、古本屋や大きな書店、出版社が軒を連ねています。

よくブックフェアみたいなのをやっているので、今まで触れてこなかった本などに触れたいときは、神保町に行ったりします。

先日訪れた際も、いくつかの出版社がセールを行っていて、安い値段で新品の本を購入することができました。

いくつか買った中で一番印象に残ったのはハン・ガンという韓国の作家が書いた『別れを告げない』という小説です。

これは1948年に韓国で起こった「済州島四・三事件」という事件を取り扱った小説です。

済州島四・三事件とは、済州島の約6万人の住民が、政府や警察、その支援を受けた反共産党団体によって弾圧されたという痛ましい事件です。事件を受けて、弾圧を恐れた島民は日本や韓国本土に向かって脱出を試み、28万人いた島民が、一時は3万人まで減ったそうです。

タイトルの『別れを告げない』とは、哀悼=死を惜しむことをやめない、という意味で、過去に起こった事件と、その事件が影響を落としている今現在の痛みとどう向き合うべきか、ということをこの作品は書いています。

主人公の友人の一人に、指を事故で落としてしまい、病院で縫合のための治療を受けている人物が出てきます。

指を再びくっつけ、動かすようにするためには、十分おきぐらいに針を刺し、血が固まらないようにする必要があるそうです。そのため、彼女は自分自身の指を治療するために間断なく続く痛みに耐えなければいけません。

主人公は、病院を離れられない彼女が飼っている鳥の世話をするため、豪雪の中、一人で彼女の家に向かいます。そこで、過去に起こった虐殺や、他人のために過酷な雪の中を進む苦しみ、友人が現在進行形で経験している痛みが入り混じった体験をします。

作者が言うには、この作品は「究極の愛の小説」でもあるそうです。哀悼をやめず、死者を思い続けること、それは痛みを伴い続ける経験でもあるはず。それでも痛みに向き合って、死者を思い続けること。死んでしまった人間と、反対にその死の輪郭をなぞろうとする人。この小説はそういった人間たちの関係性で愛を浮かび上がらせます。

また、ハン・ガンという作家の文には、他の作家にはない柔らかさがあります。それがより、この物語の雰囲気を奥深いものにしています。登場人物が実際に暗い部屋で話を交わしているような、そんな読書経験ができます。

舞台となった韓国の済州島は東京から飛行機で3時間程度。済州島には韓国の最高峰の山・漢拏(ハルラ)山があります。いつか観光で行ってみたいですね。

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