ドストエフスキー『罪と罰』

 最近、大学の図書館で、学生がおのおの好きなマンガを投票して票数を公開するという催しが行われました。写真を撮ることなどは禁止されていたので若干事実と食い違っているかもしれませんが、人気だったのは『ハイキュー!!』『ドロヘドロ』『宝石の国』といった作品だったと思います。ただそれらの作品の得票数は8票前後でした。何百票もの投票があったのですが、いろいろな種類のマンガに票が割れてしまったのですね。一票しか入っていない作品も多くありました。

 票は入れていないのですが、わたしは『DEATH NOTE』というマンガが好きです。これは名前を書かれた人間は死んでしまうという恐ろしいノートを手にした主人公が、世界を良くするためにノートの能力を使って悪人をさばいていくというマンガです。途中、主人公の所業を突き止めようとする探偵が登場するのですが、主人公と探偵の心理的な駆け引きがものすごく面白いです。また、正義と悪とは何か、強大な権能をもってして他人をさばいてよいのだろうかということを描いています。

 このような正義と悪をめぐるテーマは古くから文学作品で扱われてきました。

 例えばロシアの偉大な作家・ドストエフスキーの『罪と罰』がその代表的な作品です。

 この作品は大義のためならば小さな犠牲は容認されるという危険な思想を持った主人公が人を殺してしまい、その後、罪の意識にさいなまれていく様子を描いています。主人公が殺人という悪を行う立場に立っている点は『DEATH NOTE』と共通していますね。

『罪と罰』の主人公が殺人を犯す際、彼は様々な偶然に助けられ、危機におちいらずに済みます。この偶然の手助けを受けて、主人公は「自分は神様から選ばれて、この行動を取ったのだ」という思想にいきつきます。この点も、『DEATH NOTE』の主人公と同じです。『DEATH NOTE』の主人公も、悪人を裁く力に酔いしれて自分自身のことを神であると錯覚するのです。

 正義と悪といった問題には神の要素が付きまとっています。近代以前では動物の骨を焼いて入ったヒビの形などで人の善悪を決めていました。また、被疑者の手をお湯に突っ込ませて有罪か無罪かを決めるという方法もあったそうです。現代の日本の最高裁判所には、英語で「正義」を意味する単語・ジャスティス(Justice)の語源にもなったユースティティアというローマの女神の像が置かれています。人を裁くということは、人には重たいのかもしれませんね。

 ドストエフスキーという作家は誇張なしに世界で最も偉大な作家だと思います。ぜひ、人生で一度でいいので彼の著作に触れてみることをおススメします。(大崎)

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