ガルシア・マルケス『百年の孤独』

 クリスマスの12月25日、競馬の有馬記念が行われました。有馬記念はファンの人気投票によって出走する馬が決まります。ファンの思いを背負い走った16頭のサラブレッドはどれも精鋭ぞろいで、黄色い西日が差し込む年末の競馬場を熱く盛り上げました。勝った馬は演歌歌手である北島三郎さんが所有していたキタサンブラックという馬の子どもです。キタサンブラックも2017年の有馬記念を勝利したので、親子で同じレースを制覇したことになりますね。

 

 だいぶ前に寺山修司という詩人の『ポケットに名言を』という作品を取り上げた記事を書きました。この寺山修司は詩人や小説家、映画監督、エッセイストといった幅広い肩書を持っていたのですが、彼は大がつくほどの競馬ファンで、競馬評論家としても活躍していました。『老人と海』という作品で有名なアメリカのノーベル賞作家・ヘミングウェイは「最高の小説を読みたかったら、競馬新聞を読め」「競馬は人生の縮図だ」といったそうですが、寺山修司はその逆で、「人生が競馬の比喩(ひゆ)だ」という言葉を残しています。つまり、競馬は人生よりもスケールが大きく、人生はその競馬をたとえたものに過ぎないと言っています。寺山修司の競馬に対する思いがいかに凄まじいものであったか、この一言で伝わってきます。

 そんな寺山修司が亡くなる前に遺した作品は、『さらば箱舟』という映画でした。これは南アメリカのコロンビア出身のノーベル文学賞作家・ガルシア・マルケスの代表作『百年の孤独』という作品を日本版に変奏した作品です。権利の関係で『百年の孤独』というタイトルは使うことができなかったようです。

 『百年の孤独』は、題の通り、小さな村の繫栄と滅亡を描いた作品です。時間が繰り返すように、同じような名前を持つ登場人物が同じような出来事を反復し、そして死んでいく……血を共有する家族の盛者必衰が描かれます。

 

 この『百年の孤独』と競走馬の歴史は似ているところがあります。というのも、競走馬は速い個体をつくり出すために、人間が強い親どうしをかけ合わせて、脚が速い子孫を産出させます。結果的に成績の良い馬の子どもは増え、逆にあまり走らない馬の血は途絶えていきます。現代の競走馬の血は、たった三頭の馬にさかのぼれるそうで、今を生きる競走馬の中を流れる血液は二百年ほど続く歴史を凝縮した結晶のようなものです。先祖が勝ったレースを、今度は今を走る子孫が勝つ。そのような反復の物語が競馬にはあります。

『百年の孤独』も、百年続く血族の興亡を描いたものです。先祖の行いを子孫が反復し生と死を繰り返す。そのような血の繋がりに寺山修司は惹かれたのかもしれません。

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