この記事を書くにあたり、他塾様を批判するような意図は全くありません。
あくまで私個人の意見ということでご理解いただければと思います。
よく学習塾のチラシやホームページで「授業を欠席しても振替授業をやるので大丈夫。」という言葉を見ます。
「できなければ無制限で補習をします。」そういう言葉も見かけるかもしれません。
(私もどこかで使っているかもしれないので他人様のことは言えないのですが…)
たしかに山口学習塾でも授業を欠席した場合は振替授業は必ず行います。
授業が理解できてない、小テストで不合格、定期テストで基準点に達してない、そういう場合には強制的に補習が入ります。
それらは全部無料です。
でも、私は「無制限で振替・補習を無料で行うので大丈夫です!」ということをチラシやホームページで塾の魅力として外に売り込むことはしたくないのです。
「したくない」というよりも、「無制限」なんてことが本当にあるのか?「無料」なら本当にいいのか?
そういう思いがあるからです。
たとえば、今、中学3年生は数学で因数分解と戦っています。
数学が苦手な生徒にとってはなかなか厄介な単元です。
授業を欠席すれば当然われわれは振替授業を設定します。
担当講師が空いている時間に来れるのであれば、それこそ担当講師が付き添った形で振替授業を行うこともあります。
担当講師が空いていなくても、アルバイトのサポーターがそばでみての振替授業を設定します。
一回の振替授業で理解してなければ、当然のように補習が入ります。再テストが入ります。
「無制限で丁寧に指導します!だから大丈夫です!」
本当に?
因数分解が必要となる定期テストは一学期中間、5月にあります。
進度が遅ければ一学期期末の6月後半かもしれません。
そこまでに因数分解を理解してミスをしないような計算力をつけておかなければ点数にはならないんです。
われわれは一学期中間テスト対策期間が始まる前までは、たしかに無制限に皆さんを補習で呼び続けますよ?
因数分解ができるまで徹底的に追い込みますよ?
でも、それはあくまで一学期中間テスト対策が始まる前までなんです。
しかも、因数分解の補習をやり続けている間、他の教科の他の単元もどんどん進んでいきます。
因数分解以外にもつまずく内容が出てくるかもしれない。
もしかしたら、その間に一日、二日、塾を欠席しなければいけない事情も出てくるかもしれない。
そしたら補習や振替授業はどんどんたまっていきます。
我々は「この子は一回休んだから、一回振替授業をやれば大丈夫。」なんて形だけで仕事をしているわけではありません。
常に「この子は5月のテストでしっかり点数が取れる段階まで仕上がるだろうか。」という逆算で皆さんの指導に当たっています。
だから、「これでは点数はとてもじゃないけど取れない」と判断している限りは補習や自習や再テストに呼び続けるんです。
でも、それは決して無制限ではないんです。
中3生で言えば因数分解は何としてでも4月の後半、一学期中間テスト対策に入るまでに何とかしてもらわなければいけないんです。
現在完了も理科のイオンも一学期中間テスト対策に入る前まで、という制限があるんです。
皆さんがテストや受験のための勉強ではなく、60歳になっても因数分解を学ぶことが生涯学習として大事なんだという価値観を持っていれば、それこそ「無制限」と言ってもいいのかもしれません。
でも、そんなことはありませんよね?
定期テストを考えれば、もう一か月後に期限はせまっているんです。
入試まで、と考えてもはっきりとそこに時間的な制限があるんです。
ずいぶん前に学習塾とは全くちがう仕事をしている社長さんと話をしたことがあります。
(中学生の皆さんにはピンとこない話になってしまうかもしれません。申し訳ございません。)
話の流れの中で、私がこんなことを言ったんです。
「この前、大雨の日がありましたよね?実はその日、美容室に予約してたんですけどさすがに行けなくて別の日にしてもらったんですよ。」と。
目の前の社長さんの顔つきが少し真剣になって
「山口さん、その日は美容室に行く代わりに何かしたんですか?」とおっしゃったんです。
私としては「大雨で美容室に行くのが面倒」というのが当たり前のキャンセル理由だと思っていたので「なんでこんなことを言うんだろうか?」と思ったんですね。
社長さんは続けて
「私なら大雨で他に何もできないからこそ美容室には必ず行きます。
もし、その日、美容室をキャンセルして他の日に振り替えたとします。
振り替えた日はものすごく晴れていて、家族みんなも休みかもしれません。
そしたら、その日はみんなで山登りに行けたかもしれない。
それを子供は一生の思い出にするかもしれない。
でも、その日に美容室の振替予約が入っていればその可能性が潰れてしまうんです。
大雨の日、山口さんが美容室に行かないでそういう素晴らしい可能性を秘めたことを家でやったのなら分かります。
でも、そうでなければそれはとてももったいないことをしたと、私は思いますよ?
人生において振替なんて私はないと思っています。
何かを後回しにするということは、未来の可能性を潰すということです。
今、この瞬間、何かを後回しにしようとしたとき、私はいつもそれを考えます。
だからほとんどの場合、後回しにはしないんです。」
こう言われて私はとても恥ずかしくなったんですね。
私が黙っていると社長さんが
「もし、私の話に納得できる部分が少しでもあれば、ぜひ生徒さんたちの指導にもそういう気持ちであたってください。
そういう気持ちを持った先生に私自身の子供も預けたいと思いますから。」と。
だから私は自分の塾の魅力を外に発信するときに「無制限で振替授業、補習をします。」とは言いたくないんです。
「無料」という言葉も使いたくないのは、たとえお金をもらっていなくても生徒たちの「時間」はもらっているわけです。
そして、その「時間」は決して戻って来ないんです。
体調不良や、やむを得ない事情があるときは別ですが、生徒の皆さん、できる限り塾を休まないでください。
保護者様方、塾を休ませないでください。
テストや入試がある限り、無制限なんてことはないんです。
本当の意味での振替なんてないんです。
時間が帰って来ない限り、今失った時間を振り返ることは絶対にできないんです。