無知の知

 突然ですがみなさん、「無知(むち)(ち)」という言葉をご存じでしょうか。

 字面だけでなんとなく想像できるかもしれませんが、この言葉は「自分の無知を自覚する」という意味です。

 この「無知の知」という言葉の背景には、ちょっとしたエピソードがあります。

 古代のギリシアに、ソクラテスという哲学者がいました。

 あるとき彼は、友人から「神さまに聞いたんだけどよ、お前より頭がいいやつってこの世にいないみたいなんだわ!」という趣旨の言葉を聞きます。

 彼はショックを受けました。

 ソクラテスは自分自身の頭がいいとはまったく思っていなかったからです。

 そこで彼は、自分が賢くないことを確かめるため、さまざまな場所をめぐり、政治家や詩人など、賢者と呼ばれる人たちに会いに行き、話してみることにしました。そこで自分より頭の良い人に出会えれば、神さまのお告げがまちがっていることを証明できるというわけです。

 しかし実際に話してみると、賢者と呼ばれる人の多くは、あまり多くのことを知りませんでした。知ったかぶりや、自分の話している内容もよく理解していない人ばかり。そういった人との出会いを通して、ソクラテスは、知らないことを知っていると思い込んでいる人よりも、自身の無知を自覚している人のほうが、少しだけ賢い、という自覚を得ます。これがいわゆる「無知の知」です。

 個人的に、勉強においてもっとも大切なことの一つは「自分の間違いを知ること」だと思います。理解している、解ける問題を何回も何回も覚えなおしても、得点はあまりあがりません。なぜなら、得点を上げることは「できなかった問題をできるようにする」ことでしか成り立たないからです。

 たとえば、模擬テストを受けて70点だったとして、その70点分の問題を覚えなおして再びテストを受けたとしても、100点は取れないでしょう。点数を上げるためには、取れなかった30点分の問題を解けるようにしなければならないのです。
 裏を返せば、残りの30点を得るための最短距離の勉強方法は明確です。その30点分の問題を重点的に勉強しなおせばいいですね。どうしてその問題が解けなかったのか、どんな単語を知らないのか、どんな文法を知らないのか。自分ができなかったその30点分の問題には、自分の欠点が詰まっています。それをできるようにすることで、大きく成長できるのです。

 自分の間違いを自覚すること、テストを解き、解けなかった問題に重点をおいて勉強すること。単純なように見えて、これはかなり効率的な勉強方法です。先人の知恵や言葉に学び、いまいちど、自分のことを振り返ってみてはいかがでしょうか。

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