又吉直樹『火花』

 突然ですがみなさん、お笑いは好きですか?

 私はあまり、お笑いを見ません。「M-1グランプリ」「レッドカーペット」「エンタの神様」みたいなお笑い番組があることは知っていますが、それらを見たことはありません。

 見たことがあるのは年末にやっていた「笑ってはいけない24時」ぐらいでしょうか。最近はやっていないみたいですが。

 ピースというお笑いコンビの又吉直樹さんは『火花』という作品で芥川賞を取ったことで話題になりました。『火花』の主人公は、作者がそうであるように「お笑い芸人」です。作者と違うのは、主人公のお笑い芸人はあまり売れていない、というところでしょうか。

 お笑い芸人という職業は、他人を笑わせることが生活に直結します。めちゃめちゃに面白い芸人さんは仕事も増え、生活がうるおうのに対して、売れない芸人はいつだってお金のやりくりに苦しんでいるイメージがあります。

 大げさに言ってしまえば、彼らは「笑い」に命がかかっています。

 他人を笑わせることができなければ生活ができません。つまり生きていくことができなくなります。

 だからお笑い芸人は常に「笑い」について考え、どんなものが面白いのか、ひいてはどんな生き方が面白いのかを考え続けます。彼らにとっては、生きることと他人を笑わせることは同じような意味合いなのかもしれません。

 ただ、常にお笑いのことを考えても、売れるとは限らないのが現実です。

 たくさんいるお笑い芸人の中で売れるのは、わずか3パーセントほどだそうです。

 テレビに出ているあのお笑い芸人たちの裏には、日の目を見ることのない何千人という数の、お笑い芸人たちがいます。

 お笑いだけで生活をしている芸人は少なく、アルバイトなどをしながらその日をやり過ごしている芸人がほとんどだと思います。

 『火花』の主人公が組んでいるコンビの名前は「スパークス」といいます。

 スパーク、つまりは火花です。

 たとえ一瞬でも輝いて、お客さんに笑顔を与えたい、という願いが込められているのだと思います。長く輝くことは難しい、それでもその瞬間に誰かの生にほんのわずかな笑顔を与えられたら……という希望です。

 笑い、というのは生きることそのものにはなくても良いものです。笑わなくても死ぬわけではありません。しかし、笑いがない人生は面白くありません。生きることと笑うことの強い関係をつづった又吉直樹さんの『火花』、ぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか。

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