ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』

 先日、中学一年生の国語の授業でドイツの作家・ヘルマン・ヘッセの「少年の日の思い出」という作品を扱いました。蝶を集めることに熱心だった少年が、エーミールという男の子が手に入れたクジャクヤママユという珍しい蝶を盗んでしまって……という作品です。長い間、中学校の教科書に使われている話なので、わたしはもちろん、講師の樋口、山口や保護者のみなさまも読んだことがあるかと思います。

 授業で触れたことをきっかけに、ヘッセの『車輪の下』という作品を最近よみかえしました。『車輪の下』は天才ともてはやされた少年・ハンスが次第に出世コースから外れ、やがて破滅を迎えてしまうという筋の作品です。少年が主人公であるという点は「少年の日の思い出」といっしょです。ヘッセは子どもの繊細な心情を描写するのがとてもうまい作家でした。

 『車輪の下』の主人公・ハンスは周囲から天才と言われるのですが、しかし個人的には、彼のことは天才だと思えません。というのも、彼はかなり努力をする人間だからです。彼は町の人の期待を受けて神学校(エリートが集まる、宗教について勉強する学校)に入学するため、毎日毎日、何十時間もの勉強をこなします。個人的なイメージとして天才というものは、そういった努力とは無縁で何もせずとも優秀な成績をおさめられる人間だと思うのですが、ハンスはそういった能力を持っていないようです。

 少し話は変わりますが、「エビングハウスの忘却曲線」というものがあります。人の忘れる度合いをグラフにしたもので、それによると人間は20分後には覚えたことの42%を忘れ、一時間後には56%のことを忘れてしまうそうです。これらのタイミングで復習をすれば効率的に物事を記憶できると、受験のテクニックの一つとして高校生のときに教師から教わりました。

しかしエビングハウスの忘却曲線を見ればわかりますが、「エビングハウスの忘却曲線」の効率的な記憶の仕方は、四回くらいの復習が必要です。効率的、といってもそんなに繰り返して記憶するのは結局のところ非常に手間がかかります。

 ここで言いたいのは、効率的な覚え方ですら四回の復習が必要なのに、一度や二度の復習で何かを暗記するのは当然のことながら難しいということです。

 ハンスのことにも同じことが言えます。『車輪の下』を読んだ時、天才少年のハンスでさえ血のにじむような努力をしているのに、平々凡々な才能しか持ち合わせないわたしがどうして努力をせずに何かを成し遂げることができようかということを思い知らされました。どんなことであれ、結局のところ、ハンスくんのように努力をするしかないのかもしれません。  

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