ふつうの軽音部(原作:クワハリ・漫画:出内テツオ)

最近、高校に進学した卒業生たちが勉強しに塾に来ることがよくあります。

高校にはいろいろな部活があり、今までとは違った新しいことに挑戦する卒業生たちも多いです。写真部、茶道部、フォークソング部、バドミントン部、文芸部など、高校には多くの種類の部活があり、それぞれの分野で頑張っているみたいです。

高校生時代、わたしは部活に入らなかったため、卒業生から部活の話を聞くのは新鮮です。帰宅部だったわたしには学年を超えたつながりがなく、先輩、後輩との付き合いもなかったため、そういった上下関係の話を聞くと、もしかしたらわたしにもそういった関係がありえたかもしれない、とも思ったりします。

漫画『ふつうの軽音部』(原作:クワハリ 漫画:井内テツオ)は題名の通り軽音部のお話です。

「ふつうの」と名前にある通り、極度にドラマチックな展開などは起こりませんが、部活内でのメンバーたちの交流や、感情の揺れ動きなどがおもしろいです。

個人的に好きな場面が、主人公・鳩野ちひろが部内での発表会に失敗し、夏休み中に公園で弾き語り修行をするところです。夕方の公園でMr.Childrenの「名もなき詩」を弾き語りするシーンがとてもいいです。

主人公は歌や演奏がものすごくうまい人間としては描かれていません。中学生の頃、友だちとカラオケに行ったら歌い方が変だと笑われた、というシーンがあるので、どちらかというと技量に優れているというわけではなさそうです。

しかし、彼女の歌には、聴いている人の心を震わせる何かがこもっています。実際、漫画なので彼女がどのような声をしていて、どのように歌を歌っているのかはわかりません。描写されていてわかるのは、声量がとてもあって、彼女が全身全霊で歌を歌っていること。完成度は決して高くはないけれど、人を惹きつける力が伴っていることです。

ほかには、文化祭で主人公が中庭で、THE BLUE HEARTSの「リンダリンダ」を歌うシーンもすごく好きです。文化祭で突然歌いだすなんて、この上なくロックですね。

また、人間関係のいざこざで印象に残っているのは、バンドメンバーでカラオケに遊びに行った際、ボーカルよりもギターを担当しているメンバーのほうが、歌が上手だったというのが明らかになる場面です。メンバー同士、仲が良いはずなのに、小さな不和が生じてしまう、というところがリアリティが感じられていいですね。悪意がどこかにあるわけではないのに自然と軋轢が生じてしまう、というのはしばしばある話です。

色々と書いてきましたが、この漫画の一番の魅力はやはり、軽音部の演奏シーンにあります。現代の曲から懐かしのロックまで、様々な名曲が漫画に登場します。それらが登場人物の現在と重ね合わせられて、演奏されます。マンガなので当然音はしませんが、決してそれは弱みではなく、ふきだしの形、文字の強弱などで音がうまく表現されています。

現在高校生の方も、これから高校生になる方も、もう高校生を終えてしまった方も、何かしら心に触れる部分がきっとある作品です。「ふつうの軽音部」ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

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