突然ですが皆さん、人魚は知っていますよね?では人鳥はご存じでしょうか。上半身が人間で下半身が鳥の妖怪、ではないです。人鳥とはペンギンのことで、企鵝と呼ばれることもあります。
森見登美彦著『ペンギン・ハイウェイ』はペンギンが町中に突然現れるようになった、というお話です。それだけでも不思議な話ですが、さらに不可思議なことがいくつも積み重なって、それらの謎が一つになって……少年が百四十日分成長する、そんなお話です。
この物語は夏の郊外の町を舞台に、主人公の小学四年生・アオヤマ君が好奇心の赴くままにペンギンのことを研究したり、「海」について試案をめぐらせたり、町中の川を辿ったりします。彼の眼を通して描かれる夏の景色はどれも美しく、映像的で瑞々しい。本を読み終わったあと、思わず冒険心がくすぐられ、自転車で近くの川を辿ってみましたが、目に映るのは見知った光景に、水面に浮かぶぷかぷか浮かぶコカ・コーラの空き缶などなど。ペンギンはおろかアヒルすら見当たりません。
個人的な体験はさておいて、アオヤマ君は物語の冒頭で自分が二十歳になるまでの日数を勘定しています。皆さんが二十歳になるまで、あとどれぐらいの期間があるでしょうか。もしくは、二十歳になってからどれくらいの日数が経ったでしょうか。私の場合は……今、数えようと思ってカレンダーを開いたのですが、数えるのが億劫になってしまいました。これだけでアオヤマ君のすごさがわかった気がします。冒険に大切なのはおそらく、彼のような好奇心に満ち満ちた視点なのでしょう。
『ペンギン・ハイウェイ』は2018年にアニメ映画化されています。アオヤマ君が経験した夏の出来事を映像で見てみたいという方は、そちらに触れてみてはいかがでしょうか。(大崎)