チーズインハンバーグの原罪

 桜が散って緑が芽吹く季節になりました。いかがお過ごしでしょうか。

 新学期が始まりました。山口学習塾のサポーターの先輩方が就職され、新しく優秀な後輩たちが力を貸しに戻ってきてくれました。三年前、ここにスタッフとして帰って来たとき、同じくサポーターとして働いていたのは七名のみでした。今や十二人を超え、大所帯になり、頼もしい後輩たちのさらなる成長が楽しみでもある一方で、最年長の代になった責任に身が引き締まる思いです。

 さて、そんなわたしにも許せないものがあります。それは「チーズインハンバーグ」という言葉です。あのチーズをなかに入れておいしく焼きあげたハンバーグの存在に対し、思うところがあるのです。

「チーズインハンバーグ」という言葉の並びには自然だけどどこか間違っていて、正しそうだけどやっぱりずれている、そんな部分があります。どこにあるでしょうか。英語に直してみれば、ひょっとしたら気が付くかもしれません。

 例えば『ふしぎの国のアリス』という作品があります。イギリスのルイス・キャロルが19世紀に書いた作品で、ディズニーによって映画化もされています。そんな映画『ふしぎの国のアリス』の原題は「アリス・イン・ワンダーランド(Alice in Wonderland)」。直訳するならば、ふしぎの国にいるアリスといったところでしょうか。この言葉の主役は当然ながら「アリス」であり「イン・ワンダーランド」の部分はあくまでもアリスを修飾する脇役に過ぎません。

 さて「チーズインハンバーグ」という言葉に戻りましょう。チーズインハンバーグの主役は、いわずもがな肉厚濃厚なハンバーグです。ハンバーグを食べようとしてチーズインハンバーグを注文する人がいたとしても、チーズを食べるために注文する人はおそらくいません。

 しかしアリス・イン・ワンダーランドを「ふしぎの国のアリス」と翻訳したようにチーズインハンバーグという言葉を日本語に直すと、「ハンバーグに入ったチーズ」という意味合いになってしまい、これだとまるで主役がチーズであるかのような語順になってしまいます。ハンバーグが主役のはずが、言葉のレベルで見ると、主役として扱われているのはチーズのほうなのです

 あるときわたしはこのことに気が付いて、世界が根底からひっくり返ったかのような感覚を覚えました。かつて地球を中心にして宇宙がまわっていると思っていたら、実はまわっているのは地球のほうだったと気が付いた人も、きっとこのような体験をしたに違いありません。

 このように物事の視点がひっくり返ることを、まわっているのは宇宙ではなく地球なのだという地動説をとなえた人の名前にちなみ「コペルニクス的転回」というのですが、このチーズとハンバーグの主役の転倒はまさにその一例だと言えます。ひょっとしたら気が付いていないだけで身近にこのようなちょっとした謎が隠れているかもしれません。例えば、「七転び八起き」という慣用句はどうして一回ぶん起きる回数が多いのか、とか。問題を問題としてとらえることができる力も賢さの内だと思います。何気ない日常の中に違和感を探してみてはいかがでしょうか。