中島敦『山月記』

 早いもので今年も残すところわずかとなりました。年末に向けてお忙しい日々が続いていることと思われます。

さて皆さん、来年の干支をご存じでしょうか。来年の干支といえば、そう、(とら)です。

 虎といえばかっこよくて強いイメージがありますよね。私も虎は大好きで、先日も「漆黒の虎」の異名を持つブラックタイガーというヤツと戦い、ぼろぼろになりながらもかろうじて勝利をおさめ、フライにして食べてやりました。大変美味でございました。

 日本近代文学にも虎が登場する名作があります。中島敦の「山月記」です。現代文の教科書に収録されていることの多い作品なので、中学生の皆さんも高校生になったら読む機会があるかもしれません。著作権が切れているので、「青空文庫」というサイトでも読むこともできます。

「山月記」は中国の清の時代を舞台に、詩人を目指していた秀才・()(ちょう)が挫折してしまい、地方の下級役人の地位につくもプライドの高さに苦しみ発狂、その後、虎になってしまった末、山中でかつての友人と出くわす、といった内容の話です。

 虎になった李徴は作中で、自分の内にあった尊大な羞恥心が彼の外形をおぞましい虎に変えてしまったと語ります。詩の才能がないと知るのを恐れて他人と競いあうこともせず、逆に自分に才能があることを半端に信じ、平凡な人たちと関わることもできなかった。そんな猛獣のような“臆病な自尊心と、尊大な羞恥心”が、彼を見るも恐ろしい虎に変えてしまったと李徴はなげきます。そして虎になってしまった今でも、彼は詩で名を残すことを夢に見、それがもはや叶わなくなってしまったことに涙を流します。

 作者の中島敦は漢文にも深い理解があったようで、「山月記」も中国・清朝の寓話を下敷きにして書かれました。才能のあるなしに関わる自己愛や獣のような人間本性、「山月記」にはそれらが洗練された筆致で描かれています。美しい文体からにじみ出るような李徴の無念や後悔、過剰な自意識には現代の人間にもどこか通ずるところがあるように思います。

 来年は寅年だから、とは言いませんが「山月記」、冬休み中に読んでみてはいかがでしょうか。高校生のとき読んだ方も、再び読むことでかつての自分との違いが感じられるかもしれません。それも読書の楽しみの一つです。

 最後になりますが「ブラックタイガー」はエビの仲間です。虎と戦ったらたぶん死んでしまうので、戦ってフライにしようなんて思わないでください。(大崎)

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