「さそりの心臓」

 突然ですが皆さん、アンタレスという星をご存じでしょうか。夏の南の夜空に浮かぶさそり座の中心に輝く、赤い一等星です。別名は「さそりの心臓」。その直径は太陽の約700倍、明るさは数万倍にもなるそうです。今の季節、晴れていれば見ることができるかもしれません。

 今回紹介する小説は、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」です。ジョバンニという少年が友人のカムパネルラと一緒に、宇宙を走る列車に乗って銀河をめぐるお話です。暗い宇宙に光り輝く星々や、車窓からのぞく美しい風景が宝石等に例えられ、とても幻想的な旅の描写が楽しめます。

 この物語の中で、さそり座の由来について語られる場面があります。それによると、星座になったさそりは、かつて小さな虫たちを殺して生きていました。ある日、さそりはいたちに見つかって食べられそうになります。必死に逃げていたのですが、抑えられそうになった瞬間に井戸に落ちて、おぼれてしまいます。死の直前、いくつもの命を奪ったにもかかわらず、いたちに襲われたら一生懸命に逃げて、ついには井戸に落ちてしまったことをむなしく思い、「まことのみんなの幸のためにわたしのからだをおつかいください」と、さそりは神に祈ります。するとさそりはまっ赤な美しい火になって燃え、夜の闇を照らすことになりました。

「銀河鉄道の夜」にはしばしば「幸」という言葉が登場します。ほんとうの幸せ、みんなの幸せとは一体何なのか、そういった疑問がこの作品のテーマになっているのではないでしょうか。ジョバンニやカムパネルラと一緒にそれについて考えてみるのも、物語を楽しむ醍醐味かもしれません。

 ところで、先ほど話に出したアンタレスですが、実は二つの星が一つになって私たちに見えているのです。「連星」といって、二つの恒星がお互いに重力の影響を与え合い、重心の周りをくるくる周りあっています。ジョバンニとカムパネルラの関係性を考えると、お話の中で二つの星が一緒になっている心臓を持つさそり座が登場することが、なんだか意味深に感じられますね。(サポーター大崎)