太宰治『晩年』

皆さん、太宰治という作家はご存じでしょうか。「走れメロス」を書いた、あの太宰治です。1909年に青森県で生まれ1948年に玉川上水で入水自殺を遂げました。彼の遺体が上がった6月19日は、奇しくも彼の誕生日でもありました。このことから彼の命日である6月19日は、彼の作品にちなんで「桜桃忌」と呼ばれており、夏の季語にもなっています。

 太宰治の最初の作品集は27歳の時に刊行されました。題名は『晩年』。意味は「一生の終わりに近い時期」。デビュー作につけるには少々重たい題名ですね。この作品集の巻頭には「葉」という作品が収められています。この「葉」の冒頭の文を少し引用します。

死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。

 なんとも抒情的で綺麗な文章です。「葉」は文章を断片的に集めた作品なので一貫するストーリーはありません。その分、太宰の自由闊達な文章を堪能することができます。

 また、『晩年』の中の「道化の華」という作品には「大庭(おおば)葉蔵(ようぞう)」という人物が登場します。この大庭葉蔵は太宰が死ぬ間際に遺した最高傑作『人間失格』の主人公でもあります。『人間失格』の萌芽は、その十年前に書かれた作品の中に見られるといっても過言ではないかもしれません。  太宰治は一般的に暗い作家であるとみなされています。確かにその表現の中には暗いものもありますし、芥川賞候補となったときも「作者目下の生活に(いや)な雲あり」という評価が川端康成によってなされ、賞から落選させられました。しかしそんな太宰だからこそ描ける心象があり、人間模様があり、希望があるのではないでしょうか。「葉」の最後の一文がそれを物語っているように思いますが、それをここに記すことはしないでおきます。

(サポーター大崎)